今年も書籍の年間ベストセラーが発表になりました。
年間ベストセラーは流通を取り仕切る
トーハン、ニッパンが主に自社の流通量を集計して発表しています。

今年はどんな書籍がランキングに入っているのか。
ちょっと振り返ってみたいと思います。
詳しくは下記のサイトをご覧ください。
サイトで発表されていますので、
誰でも年間のベストセラーを確認できるようになっています。

(日本出版販売株式会社サイト)

(株式会社トーハンサイト)

それぞれの総合順位は以下の通りです。

1位 火花(又吉直樹)文藝春秋
2位 フランス人は10着しか服を持たない パリで学んだ“暮らしの質”を高める秘訣(ジェニファー・L・スコット神崎朗子訳)大和書房
3位 家族という病(下重暁子)幻冬舎
4位 聞くだけで自律神経が整うCDブック(小林弘幸、大矢たけはる)アスコム
5位 一〇三歳になってわかったこと 人生は一人でも面白い(篠田桃紅)幻冬舎
6位 置かれた場所で咲きなさい(渡辺和子)幻冬舎
7位 新・人間革命(27)(池田大作)聖教新聞社
8位 智慧の法 心のダイヤモンドを輝かせよ(大川隆法)幸福の科学出版
9位 人間の分際(曽野綾子)幻冬舎
10位 感情的にならない本 不機嫌な人は幼稚に見える(和田秀樹)新講社

念のため10位以下も。

11位 学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話(坪田信貴)KADOKAWA
12位 鹿の王(上)生き残った者、鹿の王(下)還って行く者(上橋菜穂子)KADOKAWA
13位 下町ロケット(2)ガウディ計画(池井戸潤)小学館
14位 新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方(池上彰、佐藤優)文藝春秋
15位 嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え(岸見一郎、古賀史健)ダイヤモンド社
16位 お金が貯まるのは、どっち!? お金に好かれる人、嫌われる人の法則(菅井敏之)アスコム
17位 ラプラスの魔女(東野圭吾)KADOKAWA
18位 だるまさんが(かがくいひろし)ブロンズ新社
19位 身近な人が亡くなった後の手続のすべて(児島明日美、福田真弓ほか)自由国民社
20位 平常心のコツ 「乱れた心」を整える93の言葉(植西聰)自由国民社

今年の世間一般での本の話題はなんといっても『火花』ですね。
芸人初の芥川賞作家誕生、ということで、
個人的には思うことはいろいろありますがそれはまた別の話として、
今年は、むしろこの話題が大きすぎるのか、
それ以外に本の話題があまりなかったのか、
とにかくこの話題に一点集中していました。

それをふまえつつ、
このランキングを参考にして、
ちょっとだけまとめてみましょう。

総合ランキングトップ20のうち、
文芸作品は又吉直樹氏の『火花』をはじめ
4作品。

そのほかのジャンルを、
あくまで私なりの分類で分けると、
以下のようになります。

・文芸 4作品
・新書 6作品
・宗教 2作品
・健康 1作品
・ビジネス 4作品(『平常心のコツ』はここに入れる)
・ビジネス実用 1作品
・女性エッセイ 1作品
・絵本 1作品

ちなみに出版社別に分けると、
以下のようになります。

・幻冬舎      4作品
・KADOKAWA  3作品
・アスコム     2作品
・自由国民社   2作品
・文藝春秋     2作品
・大和書房  以下1作品
・聖教新聞社
・幸福の科学社
・ブロンズ新社
・新講社
・小学館
・ダイヤモンド社

この分類に何か意味があるわけではありませんし、
ちょっとした気まぐれのようなものではありますが、
ランキングに表れている傾向が
少しは一般読者の方にも、
伝わるといいかなと思います。

また、
業界にいる人たちの感覚としては、

「なるほど、こんな集計になるのね」

と、今年の「総合ランキング」を見たら、
改めて思う部分もあるかもしれません。

私の分析はあくまでランキング、という切り取ったものを題材にして、
せっかくなので一年に一回の楽しみということで、
穿った見方をしてみよう!と思うのです。

今年のランキングのポイントをざっと上げると
以下のようになります。

①『火花』の200万部突破
②女性エッセイの活況
③ビジネス書、実用書といった大きな市場の沈黙
④出版社による広告戦略の格差拡大

『火花』の話題が年間を通して盛んだったとはいえ、
全体的に2015年は活況がない1年だったと
いえるでしょう。
とても残念なことです。

そんななか、ランキングを見て考えるならば、
女性エッセイという分野が活況だったこと、
そして女性エッセイという一大ジャンルを確立したこと、
これが明るい話題だったように思います。

その一方で、これまで出版不況のなかで、
ずっと好調を維持してきたビジネス書が
低迷した一年でもありました。

『もしドラ』以降、さらに活況の色を強くした
ビジネス書というジャンルですが、
ベストテンのなかにビジネス書が入ってこなかったり、
大きなベストセラーと呼べるものがないというのは久しぶりです。

同様に、「かたいジャンル」だった実用書において
大きなヒットが出ない一年でした。
目立っていたのは2015年より前の既刊本ばかり。

ビジネス、実用、ともに不況というのは、
象徴的なものがあります。

かなり思い切った言い方にはなりますが、

「景気がいいとビジネス書が活況になり、
不景気になると実用書が活況になる」

といった傾向があるように思います。

2015年はアベノミクス体制が崩れ始めた世の中でもあり、
ちょうど好不況のあいだをさまよっていたことを
象徴しているかのようでもあります。

また、各ジャンルの本がベストテンに入っていない遠因として、
出版社格差、とりわけ広告・PR戦略の格差が広がっていることが
あげられるでしょう。

幻冬舎がベストテンのうち4冊ランクインしていることからも分かるとおり、
新書が強かった印象を抱きますが、(幻冬舎は新書の広告が盛んなことで有名です)
その背景には、該当する出版社には広告戦略、メディア戦略がしっかりとあり、
書籍を展開、販売していくうえでの十分な基盤があった、という要素があります。

同様に、アスコムも広告戦略、
とりわけメディア戦略が最も成功している出版社といえます。

これらの版元が抱える書籍が市場で活躍し、
その一方で他版元がなかなか書店の一等地や展開を
獲得できない状況がありました。

書籍の点数が年々増加する一方で、
全体の売り上げは減少している出版業界。

数年前から、
出版社も生き残りをかけた時代に入ってきました。
そのなかでどこが生き残っていくのか、
どんな出版社が生き残っていくのか、
ある意味、それを暗示しているような
2015年だったとみることができるでしょう。

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