1月28日に配本となった、
いま大きな話題を集めている
小保方晴子さんの著書『あの日』を購入しました。

12645173_1216189818395932_3231529309966335030_n
 

野次馬的な気持ちがまったくないかと言われると、
完全にないとは言い切れないかもしれませんが…
それでも「ほとんど」ない、と断言できます。
ひとりの読者としてでもありますが、
ひとりの編集者として本づくりに興味が沸いて手に取りました。


こういった世間で「話題」になる本が出たとき、
編集者はやはり気になります。

出版に至る経緯についてもそうですが、
何より、よくも悪くも、
大きな注目を集める人の本を、
どのように作るのか、
自分に重ね合わせて考えるからです。

そのあたりは、本を読んだ感想とともに
改めて書きたいなと思います。

今回は、あえて本の内容に触れずに、
この本について編集者の視点から、
どのように作られているか少し解説しようと思います。
本の内容を読んで、
STAP細胞の真偽や小保方さんの在り方、
メッセージなどに対して個人的な感情を抱く前に、
まず純粋な「1冊の書籍」として感じたことを
書いておきたいという思いからです。


ちなみに、現在もアマゾンでは総合1位で在庫切れ、
書店でも発売日に即完売する書店が続出しています。
久しぶりに見る、すさまじい売れ行きです。

そのことを踏まえて、
この本は「実際に売れる要素」があってのことか、
もしくはやはり話題性だけなのか、
検証したいと思います。

ざっくりいうと以下のような内容です。

1.この本の反響はどの程度?
2.この本はどのように作られているのか?
3.(内容は別にして)本は売れる要素はどの程度あるのか?

それではさっそく見ていきましょう。


1.この本の反響はどの程度?

まずこの本、『あの日』の反響についてです。
先ほども触れましたが、
非常によく売れています。

アマゾンで1位を取ること自体は
それほど珍しいことではないので、
まったく驚きませんが、
書店でこれだけ完売店が続出しているのは、
かなり珍しいことと思います。

ちなみにアマゾンは
少ないときなら200冊程度の売れがあれば
1位をとれると言われています。

それに対して書店に入っている本は、
たとえば中小の書店さんならば10冊程度でしょう。
この10冊が1日に売れてしまう
これはアマゾンで1位をとることに比べると
はるかに難しく、すごいことです。

よほど「目的買い」の人が多くなければ、
ありえないことです。

ちなみに会社の近くにある
高田馬場の芳林堂、あおい書店はいずれも
29日の金曜日には完売。
池袋の三省堂で最終的に購入しましたが、
初日に即完売して、再入荷したのをようやく購入しました。

おそらく池袋の三省堂さんは
少なくとも50冊は入っていたでしょう。
それが即日完売、
紀伊国屋の新宿本店さんでは連日数百冊売れているようです。

この本は初版5万部が刷られています。

各書店さんの売れ行きをチェックしていると、
この5万部はこの三日でほぼ売れたのではないかと思います。
ちなみに配本日となっている28日は、
東京都内でも大型店しか本が届きません。

ですので、実質二日間で5万部近く、
もしかしたらそれ以上売れていると十分思える冊数が、
動いているようです。


2.この本はどのように作られているのか?

解説は3で記述するとして、
この本の基本情報だけ記載していきます。

①ハードカバーで作られている。

②価格は1400円(税別)である。

③装丁は
・シンプルなデザイン
・加工はマッドPP
・ブックデザイン 鈴木成一デザイン室(奥付より)
である。

④本文は
・本文レイアウトは1ページ42文字×17行
・構成は15章構成、章のなかに小見出しはなし
である。


3.(内容は別にして)本は売れる要素はどの程度あるのか?

ヒットを飛ばし続けるエース級の編集者は、
担当する本がどうすれば売れるか、
日々とことん考えています。

今回の本がどの程度、考えぬかれて作られたか、
それはもちろんわかりません。
でも、①~④の要素から編集者の意図をくみ取りつつ、
最終的にそられの要素が
どう売れ行きに繋がっているのかを考察したいと思います。


①ハードカバーと②価格について

この本はまず、
ソフトカバーではなくハードカバーで作られています。
ハードカバーとはその名の通り、本の装丁が硬い本。
私がつい最近担当した『もう、「あの人」のことで悩むのはやめる』はソフトカバー
見てのとおり装丁が柔らかいためそう呼ばれます。

ソフトカバー
12417642_1216198275061753_4001743007560054131_n


ハードカバー
12662729_1216198278395086_3932368256534674612_n

 
近年、どんどんハードカバーが少なくなり、
小説でもソフトカバーのものが増えています。

そんなハードカバーでこのページ数ということを考えると、
お手頃な価格といえます。
むしろほかのハードカバー書籍に比べるとお得感すら抱いてしまう、
絶妙な価格ですね。

1400円と1500円の差は大きく、
ソフトカバーの本でも1500円以上の値段をつけるのはかなり悩ましい問題です。
1400円はよくありますが、1500円はなかなか難しい。

でも、ハードカバーなら1500円は珍しくなく、
1600~1700円が相場です。
その分、ちょっと購入を悩んでも、
ハードカバーで1400円ならお得感があり、
興味を持って書店で手に取ったとき
多くの読者が「思ったより高かったから、やめよ」という
気持ちにはなりにくいのではないでしょうか。
くり返しになりますが、この値段は安いと思います。


③装丁についてについて。

今回の本でいえば、
ここが編集者として最大の見どころになります。
なんといっても本は内容ももちろんですが、
「本の顔」となる装丁も
大きく売り上げを左右します。

今回非常にシンプルな装丁ですが、
これを編集者として、どう見るのか。

まず結論から言うと、非常にいい装丁だな、というのが正直な気持ちです。
もし私が今回のような条件で本を作るとしたら、
おそらく同じような本の装丁をイメージしたと思います。


この装丁にはいくつかのポイントがあります。


今回のタイトルは「あの日」という短いものです。
さまざまな出来事、タイミングがあったので、
個人的には「どの日?」と思ってしまいますが、
装丁としては、とてもシンプルなメッセージに、
著者名が添えられています。

添えられている、と書きましたが、
むしろ最も主張しているのがこの著者名といえるでしょう。

タイトルは淡いグレー。
それに対して著者名ははっきりとしたスミ(黒色)です。
加えて、タイトル文字と著者名が同じ大きさになっているわけです。

通常、タイトルと著者名が同じ大きさというのは、
なかなかありません。

このあたりはデザイナーさんによる配置でしょう。
この本は「あの日」というあいまいなタイトルを冠しています。
通常本のタイトルはその本のメッセージを最も読者に訴えるべきポイントです。

しかし今回はそれがあいまい。
ならば、そのあいまいさを活かしてグレーにすることで、
これまでの出来事を読者に回顧させつつ、
著者の決意、潔さを演出しています。

しっかりと問題を見つめる、
ということではなく、
あくまで「回顧」するものとして提示されることで、
著者名を浮き上がらせています。

そのため、グレーと黒以外は使わず、
白地にしているのでしょう。


老若男女、すべての世代・年代を対象とする場合、
地色にしてもタイトルにしても、
色を使うのはとても難しいものです。
なぜなら、明るい色は派手な色は若い人には響いても、
高齢層には響かない。

落ち着いた色は、
高齢層には響いても、若い層には響かないといったことがあるからです。


「色」をつけるということは、
それだけ対象をはっきりさせることにつながります。


だから、広い読者をイメージした本の場合、
私も地色を白にしますし、
実際、ベストセラーは白の割合が多いことがわかります。

そして装丁でいえばもう一点。
これは本のイメージを大きく左右するものですが、
小保方さんの写真が使われておりません。

STAP細胞の話題は、
もちろん研究の可能性の大きさや、
その後発覚した行為そのものの問題もありますが、
小保方さんが若い研究者であり、
かつ女性で、しかも外見もいい、
そんな要素があって過熱したことは間違いありません。


そうなると、つい写真を入れたくなる編集者もいるでしょう。
でもそれをしなかったことで、
「手記」という性格をしっかりと守り
装丁としてプラスに働いたと思います。

そう思ってブックデザインが誰かを確認したら、
鈴木成一デザイン室とあるではありませんか。
編集者なら知らない人はいない、
ブックデザイナーの大御所の一人です。
それを見て、この装丁のうまさに、
大きく納得しました。


この本を、単純に「1冊の本」として見たとき、
タイトルがこれほどあいまいで、
よくわからないにもかかわらず、
はっきりとしたメッセージや印象を与え、
かつ読者に買わせようという気持ちにさせるのは、
鈴木成一氏によるデザインが大きく寄与している部分もあると思います。


最後に④本文の作り方については軽く触れましょう。

本文はかなり分量が多く、
文字も詰まっています。

通常、これだけあると読むのが大変だと思わせますが、
手記としてのレイアウトされている為、
読むことにそれほどの大変さを感じさせません。
これも工夫の一つだと思います。



以上を総合して、
本書は1冊の本として編集者の目からみたとき、
タイトルはよくわからず、決して読者の胸に刺さるものにはなっておりませんが、
(むしろ現実に向き合っていないようなマイナスの印象すら感じる)
うまくイメージを演出し、
どの年代でも抵抗感なく、つい手に取ってみてしまうような工夫が施されております。

それが今回の爆発的な売れ行きにつながっているのでしょう。

もちろん、内容についてはまったく別問題であることを、
最後にもう一度断ったうえで、
社会問題を起こした人の書籍としては、
よく「考えられた一冊」になっていると思います。