今回の記事は、
とある方からのご要望に応えまして、
次の議題に対して、答えたいと思います。

それは、

「ネットから書籍化される作品が増えているけれど、
 なぜ、ネットで読んでいると面白いのに、
 書籍化すると物足りない感じがするのだろう?」

というテーマについてです。


もちろんブログの書籍化で成功する作品もあります。
けれどせっかくブログ等で人気だった作品が、
待望の単行本化したことによって、
ファンをがっかりさせてしまう、ということも少なくありません。

なぜ、こんなことが起こるのか?
単行本化するときは、どうすれば面白さを保てるのか?

そこに悩んでいらっしゃる方は、
たくさんいます。

もちろん、趣味で創作活動をしている人から、
プロとして仕事をしている人まで、
同じく抱く悩みです。


このことについて、
編集者の視点から、大事なことをお伝えしようと思います。



よく言われることですが、
昨今、個人がSNSやブログを通して
情報を発信する時代になりました。

その内容が面白ければ、
読者がついて人気が出るし、
それが編集者の目にとまれば、
単行本化するということも、珍しくありません。

むしろ、最近の出版業界を見渡すと、
「人気ブログ」「Twiiter」「Pixiv」の作品を単行本化した本が、
ズラズラずらずらと、たくさん並んでいるわけです。

ネット上はもはや青田買いのようになっていて、
私の知り合いは4コマブログをしていてまだ日が浅かったのですが、
ブログの4コマランキングで上位(具体的には50位以上)になったとたん、
複数の出版社から書籍化のオファーが来たと言っていました。
他社に奪われないようとにかく書籍化できそうなものには片っ端から声をかけているのでしょう。


たとえば最近で話題になったネットからの単行本化といえば、

『子宮のなかの人たち』(EMI 著)
『夜廻り猫』(深谷かおる 著)
『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』(永田カビ)



夜廻り猫 1 今宵もどこかで涙の匂い
深谷 かほる
KADOKAWA/エンターブレイン
2016-06-30


さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ
永田カビ
イースト・プレス
2016-06-30




 

などが挙げられます。
『子宮のなかの人たち』については、
私自身もリアルタイムでマンガを見ていて、
面白いなぁと思っていました。

企画にしようかな、と思ったこともありましたが、
自分のなかでの基準や、
会社の基準などとの絡みから、
ギリギリ企画を立てるに至りませんでした。
(私がほかの会社にいたら、おそらく企画にしていたと思います
 まぁ流行っていたので著者さんのところにはオファーが殺到していたかと思いますが…)


少々話が逸れましたが
今回の記事では、『夜廻り猫』を題材にして、
ブログを単行本化する際のポイントについて
お話ししたいと思います。

というのも、
たまたま今回のお題をくれた方が、

夜廻り猫を、ネットで読んでいたときはすごく感動したのに、
単行本で買って読んだら、
ネットで読んでいたときほど泣けなかった。
もちろんネットは初見なので感動も強いと思うが、
ネットで読み返したときは何度も泣けたのに……
どうしてだろう?

という話をしてくれたからです。

早速、ネットで先に作品を拝見し、
書籍も購入して読んでみました。

そこで思ったことは、
たしかにネットで得た衝撃的なインパクトが、
単行本ではそこまでないなぁ、ということです。


ちなみに最初にお伝えしておくと、
この『夜廻り猫』、とても面白い作品です。
アマゾンなどでもとても評価の高いレビューがついており、
本当にたくさんの感動を与えてくれる作品となっています。
だからこそ、恐縮ながらも、
今回、取り上げさせていただきました。
 

ネットで読んだときの感動が書籍を読んだときには伝わらない、
もしくは、より大きな感動とならない、
というのは、とてももったいないことだなあと思います。 
そのほかにも、ブログは面白かったのに
書籍にしたら思ったほどではない……という作品はたくさんあります。


では、ようやくですが、
ネットで人気の作品が、
なぜ書籍になるとその面白さが損なわれるのか、
書いていきたいと思います。




ブログの人気作品が書籍化したから読んでみたけど、
ブログほどの面白さが感じられない。


そんな話はよくあります。


そもそもブログと書籍では媒体が違うので、
同じコンテンツだとしても見え方や、
メッセージ性が変わるのは当然のことです。


もっというと、
同じ原稿、イラストを掲載していても、
ブログで発信した作品と、
書籍で掲載した作品とでは、
まったく別の作品といっても過言ではないほど、
違う作品になります。


書籍というコンテンツにしても、
ブログと同等の見え方やメッセージが出れば、
面白さは損なわれないかもしれませんが、
多くの作品はそうなっていません。


ですから、
「ブログと書籍という二つの媒体では、どのように見え方が異なるのか?」


それをちゃんと理解することができれば、
自分のブログコンテンツ(メルマガなどのコンテンツも含む)を、
面白さを損なわずに書籍化することができるのです。
むしろ、書籍化することで、
もっとクオリティが上がる可能性が十分にあります。


では、さっそくですが、
ブログと書籍のあいだにある違いをお伝えしましょう。


それは、「ストーリー」と「テーマ」という二つの要素です。


では「ストーリー」と「テーマ」とは、
具体的にどのようなことを指すのか、
次に書き出してみました。


①ストーリー
それぞれのコンテンツをひとつにつなげる話の「流れ」です。
一般的に言われる「起承転結」とも言えます。
それぞれの短いコンテンツに、
明確な「はじまり」と「おわり」を作成して、
そのあいだの起伏をつけたり、生み出したりする作業をいいます。


➁テーマ
ストーリーの向かう「方向」、
もしくはストーリーを伝えるための「設定」ともいえます。
この設定があいまいだと、
誰に何を伝える作品かがぼやけてしまい、
ストーリーがあやふやになります。



この二つがそろってはじめて、
書籍のコンテンツとして成立します。


『夜廻り猫』の場合、
ネットコンテンツとして読んでいると、
一つひとつが読者の心に温かく届き、
「人見知り」せずに心の奥深くに入り込んでくるような、
爽快感と読後感があります。


ただ、単行本になったときに、
どのような読者に向けて、
どんなメッセージを伝えたいのか、
そのためにどんなストーリーにしているのか、
その意図が曖昧に感じられました。


確かに一つ一つのストーリーは心温まるものです。
けれど単行本として並べたときに、
すべての話の中に一本共通して流れているテーマが見えにくくなってしまっています。
(例えば平蔵が涙のにおいを探して夜廻りしている理由などが明確に書かれていないため)

ネットコンテンツは1~2時間かけて読むものではありません。
ふらっと見にきて、その瞬間に面白さを感じるもの。
つまり、短い時間で見せるコンテンツといえます。

一方、書籍は通常1~2時間は少なくともかけて読むもの。
つまり、ある程度の時間をかけて面白さを提供するものであり、
その時間をかけたからこそ伝わる、感じられる面白さを見せるコンテンツといえます。


これが書籍コンテンツの
長所でもあり短所でもある、ネットコンテンツとの大きな違いです。

書籍をすべて読んだとき、
改めて一つのテーマを感じられるひと工夫があったほうが、
より深く作品世界に没入できるはずです。

例えば、
「人間なら誰もが持っている寂しさを、ちょっとだけ埋めてくれるような格言」
という広いテーマ設定をしたとしましょう。
 
最初は難なく人の寂しさを解消していた夜廻り猫が、
あるとき、見た目は明るいけど、
じつは深い闇を抱えた手ごわい人に会って、
その人だけは解消できない。
でも、ちょっとしたきっかけで
その闇を解消する方法に出合って……。

などというストーリーの盛り上がりが考えられるかもしれません。
(思いつきのストーリーで恐縮ですが)


8コマ漫画というこの作品のよさを、
コマ割りのあるストーリーにしろということではなく、
8コマなら8コマで、
書籍にするならば目指すべきテーマ、
方向性が必要ということなのです。


くり返しになりますが、
書籍というのは少なくとも1時間はかけて読むもので、
その形式に沿ったコンテンツでなければいけません。

1時間以上かけて読んだ先に、
「あぁ~~~~、よかったなぁ」
と思わずため息が出るような
そんなメッセージを届けなければいけません。

だからネットで読んでいたときと、
書籍化されて単行本で読んでいたときで、
受けた印象が異なるのだと思います。


これはネットと書籍で、
どちらのコンテンツが上か下かという話ではなく、
コンテンツとしての枠組みがまったく違うので、
その枠組みにちゃんと対応して作り直さないと、
せっかく持っているコンテンツの良さが届かないということ。

むしろ、コンテンツを変えることで、
あなたのコンテンツに
新しい一面が生まれてより多くの読者を獲得し、
それまでと違った感動を生むことができるということを意味しています。
それをしないのは、非常にもったいないことです。


もし、ネットでコンテンツを発信していて、
それを将来書籍のような形にまとめたいと願うならば、
最初にストーリーと設定を作りこんだうえで、
一回一回の作品としてまとまりのある形にして
発表していくと、書籍化もされやすいですし、
書籍化した際にも読者に受け入れられやすいでしょう。


もちろん、編集者としても、
そのネットコンテンツにストーリーがあったほうが、
書籍化しやすいため、オファーしやすくなります。


いま、本当に面白いコンテンツがたくさん発表されています。
それを継続して発表する努力さえあれば、
書籍化は決して難しいことではありません。


才能ある人たちのコンテンツが、
ちゃんと編集された書籍となって、
多くの人に届いていけばいいなと思います。

ネット作品の書籍化①