3月8日、期待の新刊である、

『若手をかせ』(中村トメ吉 著)

が刊行となりました。



若手を動かせ③

改めて著者の中村トメ吉さんをご紹介いたしましょう。

「OCEAN TOKYO」という美容院の代表を務める方で、
ご自身もカリスマ美容師でいらっしゃいます。

今年、ご自身のカット料金を
12000円に値上げをしたことでも
話題になったのですが、
(しかもお金のない学生さんたちがこぞって「その価値がある」と話題に)
この「OCEAN TOKYO」という美容院は
とにかく業界に多くの話題を残しています。


ではこの『若手を動かせ』はどんな本なのか。


ひと言でいうと、
「若手を動かす」方法であり、
それによって仕事の成果を挙げる秘訣が
書かれています。


経営者はもちろんのこと、
管理職の方、若手を指導するリーダーの方、
後輩ができて基礎を教えることになった先輩、
サークルのリーダーなども当てはまります。

私のような「プロジェクト」や「チーム」単位で仕事をする、
編集者をはじめとしたクリエイティブ職の方々、
多方面の方にとって、
当てはまる内容になっているでしょう。

幅広く読者に訴求ができる内容になったことで、
ビジネス誌の編集者さんも興味を持ってくださったり、
実際に、初日から多くの方が話題にしてくださっています。


でも、じつは最初から本書が、
「若手」をテーマにしていたわけではありません。

そんな『若手を動かせ』にかんする、
「編集の裏側」を数回にわたって紹介したいと思います。

自分でいうのもなんですが、
今回は特に「編集」というスキルが試される一冊であり、
そのスキルが詰め込まれた内容になっていると思います。

本を出したい方は必須の内容です。
編集者の方々にとっても、
参考になる部分はあると思うので、
少し詳しく書いていきたいと思います。

本の形になると、
一般の読者さんはなかなかわかりませんが、
「編集」というスキルの重要性を、
私自身も再認識させられる思いです。



「テーマ設定」
1.本の広がりを持たせるには「読者のズレ」を消していく

まず、今回の企画の経緯についてですが、
企画自体は私が立てたものではなく、
「依頼」を頂戴して進めたものです。

そのため、OCEAN TOKYOの噂は耳にしていたものの、
その代表である中村トメ吉さんとは
面識はありませんでした。

編集を担当させていただき、
まず考えなければいけなかったことは、
中村トメ吉さんという人物に対して、
どのようなテーマを設定するのか、

ということでした。

極端な話、
ここが最初にして最大の難問だったともいえます。

ここをどう設定するかで、
本の目指すべき方向がすべて決まってしまうからです。
だからといって、
「テーマ」だけを考えようと思っても、
「ベストテーマ」にはたどり着かないのが
「テーマ設定」の微細なところです。


トメ吉さんはすでに触れたように、
美容業界では著名な方でファンもいます。
しかしそれはあくまで「美容業界」であって、
ビジネス業界ではまったく無名の存在です。

おそらく編集者であれば、
そのような方にはこれまで、
少なからず出会っているのではないかと思います。

しかし「業界ではファンがいる方」の企画は、
思ったよりうまくまとまらなかったり、
企画として本になっても思ったように
広がらなかったりすることが大半です。

なぜなら、
いくらファンを持っていたとしても、
そのファンを意識して本を作ると、
肝心の「ビジネス書の読者層」
刺さらない本になるからです。

編集者としては、
基本的な部分ではありますが、

「読ませたい人(本が想定する読者層)」
「読ませるべき人(本のジャンルの読者層)」


この両者に「ズレ」が生じているわけです。

だから売れたとしても
広がっていかない。

「ファンの外」には広がらないのです。

となると、
やはり「読ませるべき人(本のジャンルの読者層)」
を意識したテーマ設定をしていかなければいけません。

ただしそちらに寄り過ぎると、
著者の本を一番最初に買ってくれる
「ファンの人」にとっては、
「ズレ」た本になってしまう。

さあ、どちらを取るべきか?


これを考えなければいけません。



「テーマ設定」
2.「チームマネジメント」だけでは納得できない理由


今回の本では、
美容業界で活躍するトメ吉さんのメッセージを
一般の方に広める、という目的がありました。

ですので、
もちろん優先するべきは「ジャンルの読者」、
つまりビジネスマンです。

そうなると、
どんなテーマ設定をしていくか、
ということを考えなければいけませんでした。

今回はそれを探るために、
まず一度、トメ吉さんにお会いして、
取材をさせていただきました。

じつはエイ出版さんからは
企画書もいただいていたのですが、
私の意向を尊重してくださるともおっしゃっていたので、
そちらはあくまで「参考」とさせていただきました。

ちなみにいただいていた想定テーマは、
「チームマネジメント」というものでした。

OCEAN TOKYOといえば、
とにかくスタッフ教育が独特で、また、
スタッフがめきめきと上達してスターになっていく、
というのが話題の美容院でした。
それを手がけたのがトメ吉さんです。

だから、
著者さんの方向性としては
マッチングしていました。

もちろん、
ビジネス層を意識したテーマ設定となっています。
それで作ることもできました。

しかし、それを踏襲することはしませんでした。
なぜなら、

「中村トメ吉→チームマネジメント」


という流れは、
マッチングしているけれども、

「チームマネジメント→中村トメ吉」

はどうかというと、
厳密には成立しない。

つまり、
「トメ吉さんといえばチームマネジメント」と言えるけれど、
「チームマネジメントといえばトメ吉さん」とは言えない。

それが一般ビジネスマンの認識だからです。
チームマネジメントのプロとして
仕事をしているわけではないからですね。

だから、チームマネジメントに「沿った」内容だとしても、
チームマネジメント「だけ」ではいけない。
もうひと工夫必要だな、と思っていました。

「◎◎」といえばトメ吉さん、
の流れでも違和感がないくらいのテーマを模索することが理想であり、
編集者が考えを巡らせながら辿り着かなければいけない「答え」です。
(そして時にはそのテーマを自ら作らなければいけない)

ここは企画作成段階で、
編集者でも陥りがちなポイントなので注意しなければいけません。

「著者→テーマ」にはなっているけど、
「テーマ→著者」にはなっていない。

つまり、
「双方向」ではなく「一方向」
でしかない企画です。

じゃあ、なぜダメなのかというと、
一方向の企画というのは、
「著者を知っている人」にとっては違和感がないから広がるけど、
「著者を知らない人」にとっては違和感があって広がらないからです。

そうなると、「著者を知っている人」以上には広がらない。

つまり、
一般読者を目指して企画を立てているはずなのに、
「ファン層」を目指して本作りをしているのと、
結果、「広がり方」が変わらない本になってしまう、

という現象が起こります。

であれば、
「ファン層」にちゃんと刺さるものを作ったほうが、
まだ確実に手に取ってもらい、
話題にもなり、広まっていく可能性があります。

チームマネジメントだけだと、
「ファン層」のなかでも読者の興味を
狭めてしまいかねません。

せっかく一般読者に向けて作ったのに、
むしろ「最悪手」を打っている可能性が出てくるのです。

これがテーマ設定の難しいところであり、
間違えると怖いところですね。



「テーマ設定」
3.美容関係者が発信して一般読者に広がる条件とは?


『若手を動かせ』の話に戻しましょう。

双方向でのテーマ設定を考えたときに、
なるべく違和感のないものを設定しないと、
読者の広がりが生まれません。

ここがズレると、
せっかくのファン層にも届かない可能性も出てくる。

これをいかに見定めるかを
しばらく考えました。

まずは、
著者が持つ「特性」のおさらいです。


◎ご自身は「メンズカットのカリスマ」として有名
◎美容院は「若手メンズ」をメインターゲットにして日本一
 業界では有名なOCEAN TOKYO
◎美容院ではスタッフみんなの「仲の良さ」や
 お客さんに対する圧倒的なコミットメントが特徴
◎独特な社員教育。他店で芽が出なかったスタッフも
 OCEAN TOKYOではみんな人気美容師になる
◎そのためトメ吉さんだけでなく、美容院のメンバーみんなが一定のファンを持つ
◎SNSでのお客さんとの交流も盛んで、ファン獲得のマーケティングも成功
◎ファンは学生を中心とした若手層


さて、いかがでしょうか。

みなさんなら、
どのようなテーマの企画を立てるでしょうか。

これだけを見ると、
私が最初に受け取った「チームマネジメント」というテーマも、
頷けるのではないでしょうか。

OCEAN TOKYOのチームビルディングのすごさを知っているからこそ、
一般的な企業でも当てはまる、
「チームマネジメント」をテーマに設定したわけですからね。

しかし私は、

「美容業界の人がビジネス業界でも通用するのを証明したい!」
「美容業界内で消費されるものではなく、
 一般読者に読んでもらう一冊にしたい!」

という要望をいただいていましたので、
それを踏まえるとチームマネジメントだけでは、
トメ吉さんを知らない人に届かないと思いました。

また、
「その話って美容業界だから通用する話でしょ」
と思われたらその時点で一般読者は読んでくれません。

著者をまったく知らない人が見ても、
美容業界に関心がまったくない人が見ても、
納得できるテーマは何か。

つまり、チームマネジメントを土台にしつつ、
「この人が語るこのテーマなら読んでみようかな」
とビジネスマンが思えるテーマは何かを考えました。

条件としては次のようなものが考えられます。

(A)すべてのビジネスマンが関心を持てること
(B)ちゃんと実績があること
(C)美容業界こそ、その分野のお手本だと思えること



それを踏まえつつ次の①〜③を考えてみましょう。




①実績を強調するテーマにする

最初に思いついたのは、
チームマネジメントに
「メンズ」という切り口を加えることです。

「メンズをメインターゲットにして日本一」
というのがやはり一番実績としてわかりやすく、
また社員も多くが男性。

「女子のトリセツ」はあっても、
「メンズのトリセツ」はなかなかない。

そして上司や部下・同僚など、
やっぱり最終的に悩みの種になるのは、
「男性」と言ってもいい。

女子に悩むビジネスマンに対する解決策は言い尽くされたから、
逆に、今の時代は「男子の扱いに悩むビジネスマン」という人物像を
浮き彫りにしていけばいいのではないか。

それを解決できる人ほどうまくいく、とすれば筋も通るし、
うまくいけば話題になるかもしれない。

そう思いました。

しかし、
「なぜ女子のトリセツよりも男子のトリセツが大事か」
という部分の説得力に欠けていました。

なぜなら、
「男子を育てた」という経験はあっても、
「女子をたくさん育てた」という経験が
あったわけではないからです。

また美容業界が「男子のトリセツ」に長けているかというと、
納得できなくないけど、すんなりはいかない。
実績に基づいたテーマは難しそうです。

つまり

(A)◎(「男性の扱い方」はビジネスマンに関連がある)
(B)×(実績として弱い)
(C)△(美容業界との相性はやや弱い)



②ノウハウを強調したテーマにする

チームマネジメントというテーマをさらに掘り下げ、
そのチームマネジメントの最も根幹をなす
「1本の軸」を見つけてテーマにしたらどうか。

そう考えました。
実践しているノウハウを
わかりやすく一本化するということです。

そこで取材を通してお話を伺ったところ、
トメ吉さんがやってらっしゃることは、
誰もがわかっているけれど実際にはなかなかできない、
理想論で終わってしまうような「ド正論」を本気で実践する、

ということでした。
(もちろん色々あったんですが、一本化すると)

しかし、「ド正論を貫きなさい」というのは、
メッセージとして抽象的になりがちで、
オリジナリティを強くは打ち出せない。
また、「美容業界だからそのノウハウが通用するんでしょ」
というツッコミに対して、
それを上回る強い説明力が醸し出せない。
そんな問題点がありました。

つまり、
会社のスタッフを育てたという実績に
根ざしたノウハウではあるし、
チームを育てる、という立場の人も一定数は確実にいるけど、
美容業界という業界が特殊な環境に見えてしまう。

やはり一般ビジネスマンに広がりそうにありません。
もっと普遍的なテーマが必要です。


(A)△(正論を貫け、というのは一般的な関心ではある)
(B)◎(それで日本一の美容院になった)
(C)×(一般企業での汎用性が疑わしい。実現性が弱い)




③社会的課題を刺激するテーマ

細かいものを含めると、
①や②だけではなく、
たくさんのテーマをそれまでに考えました。

でも、

(A)すべてのビジネスマンが関心を持てること
(B)ちゃんと実績があること
(C)美容業界こそ、その分野のお手本だと思えること


これをなかなか満たせないなあと思っていました。
とくに(C)に関連する部分ですが、

「一般ビジネスマンが、
 馴染みのない美容院の経営者から学びたいことは何か」


この解決策が簡単ではなかった。

でも、トメ吉さんという人物は、
「美容業界を超えて、今の世の中に必要な何かを持っている」
と制作チームはみんな信じていました。

その原点に立ち返り、
「今の時代の何を解決しているのか?」
という視点で考えました。

すると、チームのメンバーが、
「いまの時代において、若手がこれだけ熱くなっているサロンはすごい」
とヒントをくださったことをきっかけに、
「人を動かす」というのを土台にすれば普遍的になる!
と思いました。

ただしこれだけだと、
ビジネス書においてはよくあるテーマで、
オリジナリティはない。
ではどうすればオリジナルになるか。

そこで「若手に人気」という実績を担保にし、
それを社会的課題と結びつけることを考えました。

いま「SNS世代」とも言われる若手に対し、
「思ったとおりに動いてくれない」
「こちらが指示してもやる気が感じられない」
という悩みがよく聞かれます。

それを「問題提起」として設定し、
その問題を解決するテーマとして、
「若手の動かし方」
を公開したわけです。

さらに読者層を広げていくために、
「若手を動かす人ほど成功する」
「そもそも若手は動くし、やる気もある」
というテーマも加えています。

これはそれぞれ、

「若手の動かし方」
 →解決策

「若手を動かす人ほど成功する」
 →自分にもメリットあるよ

「そもそも若手は動くし、やる気もある」
 →社会的課題に対する意外な答え(知的好奇心)


このように訴求するために設定したものです。

ここが重要なところですが、
「若手の動かし方」
というテーマで進めていくなかでたまたま、
「若手を動かす人ほど成功する」
「そもそも若手は動くし、やる気もある」
という要素が見えてきたわけではありません。

「メリット」と「知的好奇心」。
この二つをちゃんと刺激するベクトルを考えて、
上記の二つを作り出しているということです。


この視点を含めているかどうかで、
本書がカバーする読者層の広がりは
まったく違ったものになっていたでしょう。

そうでなければ最適なバランスで、
「解決策」「メリット」「知的好奇心」
を本の中に配置できないからです。

本書をご覧いただくと、
わかりやすくそれが配置されているのが
少しは感じていただけるのではないかと思います。

さて、もう一度条件を見直していきましょう。
(A)すべてのビジネスマンが関心を持てること
(B)ちゃんと実績があること
(C)美容業界こそ、その分野のお手本だと思えること

(A)はクリアしました。
OCEAN TOKYOは平均年齢23.8歳という超若手企業。
その若手を動かして会社も個人も
圧倒的な成果を出しているため実績も十分です。
こんなに若い会社、
ビジネス業界を探してもなかなかありません。

学歴のあるエリートを採用したがる一般企業に対し、
美容院は「やんちゃな若手」が多く集まる職場です。
しかも売上で比較される能力主義のため対立も起きやすく、
「若手の扱いにくさ」でいえば一般企業の比ではありません。
一般企業よりも「若手の扱い」についても語れそうです。

つまり

(A)◎
(B)◎
(C)◎


すべてクリアしました!

こうして難解だったテーマ設定に、
大きな大きな光が射したのでした。

さて、テーマ設定だけで長くなりましたが、
それだけ本書には格闘の跡があるということですね。

もう少しだけ、
『若手を動かせ』における
本作りの裏側をレポートしていきたいと思います。

今度は本作りや装丁など
よりわかりやすい部分についての
「裏側」です。

これは、
本を出したい著者さん、
新しくビジネス書を担当する編集者、
そしてビジネス書にチャンレンジする出版社、
すべてにとってひとつのわかりやすい
モデルケースになると思います。



※ちなみに補足すると、どのテーマにおいても、「読者の悩み」を解決するもの、というのは前提です。ですので、その視点は今回省きました。これはテーマ設定ではなく「企画の作り方」における、より初歩的な話なので、そこで書いていきたいと思います。