人と会うと以前として現在の出版状況について
聞かれることが多い昨今です。

いまの出版状況は世間と同様、
新型コロナウイルスの影響を強く受けています。
そのことについても
機会があったらお話ししようと思います。

出版社にいるだけではわからないことも多く、
意外と編集者からも多く質問を受けることがあるんですよね。


さて、そんななか先日、

『新装版 免疫力をあなどるな!』(矢﨑雄一郎、サンマーク出版)

新装版 免疫力をあなどるな!
矢﨑 雄一郎
サンマーク出版
2020-04-28



という本をご紹介しました。
「新装版」というのは、
元々刊行された本(親本、元本などといいます)を土台にして、
装丁などを一新して刊行することを言います。


一見すると、
ただ装丁を変えてカバーを巻き直して
出版している本、というように見えますし、
実際にそういう本がたくさんあります。

でも、その作業には意外と奥深いものがあり、
その「奥深さ」をちゃんと知っているかどうかは、
編集者としてのスキルにも関わってくるし、
書籍を楽しむうえでもちょっとしたスパイスになるでしょう。


今回はそれを踏まえて、

「過去作品をリメイクして出版するメリットや意味とは?」

と題し、その核心について解説していきたいと思います。
大きくは次の4つになります。



【目次】
①低リスクで出版できる
②時代の興味関心にあわせて出版できる
③書店さんが展開してくれる
④再度流通に乗せられる




同じ内容の本をもう一度出版する意味とは?


そもそも、過去の本を装い新たに出す、というのは、
出版業界では決して珍しいことではありません。
それにはいくつかの理由があります。

さっそく、その理由の①〜④を順に解説していきたいと思います。


①低リスクで出版できる


たとえば「新装版」のほかにも
「改訂版」「現代版」「リメイク版」などもあれば
タイトルをそのままにして装丁だけ変えて出すこともあります。

実際にそれでミリオンセラーになるような本もありますからね。
出版社としても過去の作品を「リメイク」して売れる本になるなら、
それほど大きな負担やスタッフも必要なく「おいしい話」になるわけです。

つまり低いリスクで出版できる。
これが過去の本をリメイクして出版する、
非常にシンプルでわかりやすい、大きな要因となります。
ローリスクハイリターン、
そんなビジネスがあればみんなやりたいですよね。


②時代の興味関心にあわせて出版できる


本を出版する際には、
それが過去のリメイクであれ新刊であれ、
なんでもかんでも出せばいいというわけではありません。

世の中すべての商品がそうであるように、
需要と供給が市場には存在し、
読者のニーズ(供給)を満たすものを提供する必要があります。

過去に売れた本であれば、
通常、何年か経つと「文庫」になって、
再度書店に流通します。

文庫版はときに「廉価版」という言い方もされますが、
単行本だと1500円くらいした内容のものが、
おおよそ半分以下の価格で読めるものになるわけです。
ここでは「売れた本を安く読みたい」という
読者のニーズに応えているわけですね。

じゃあ単行本はすべて文庫版にすれば
読者のニーズを満たすかというと、
そう簡単な話ではありません。

実際に、文庫にもならない本のほうが
圧倒的に多いのが出版社の単行本。
それだけ「売れた」という実績のある本など
一握りしかなく廉価になってすら読みたいとは思わない本が
読者からするとほとんどなわけです。


ですから過去の作品をリメイクして出版するというのは、
多くの場合で「売れなかった本」をまた出版する、
という側面が多いため、売れなければ当然、

「その単行本の赤字を積み上げるだけ」

という編集者が聞いたらゾッとするような話になります。←ほんと震えます笑。
ただ、そのリスクを極限まで背負わずにできるのは、
新刊と異なりリメイク出版の場合、

「その時期に興味関心が高まっているテーマの本をピックアップして刊行できる」

という強みがあるからです。
暑い日に熱いコーンポタージュなんて飲みたくないですが、
寒い日に温かいコーンポタージュなら飲みたくなる。

だから冬になると自動販売機には
コーンポタージュが並び、
雪が降ったか降らないか冬の寒い日にはつい飲みたくなるわけです。

それと同じで、
政治への関心が高まっていれば
政治関連の本は読まれます。

今回の『新装版 免疫力をあなどるな!』もまさにそう。
新型コロナウイルスによって免疫力への関心が高まったことを受けて、
「超特急」といっていいくらいのスピードで、
まさに緊急出版!しました。


③書店さんが展開してくれる


社会的に関心が高まっているテーマの本だから、
出せば売れる、というとじつは少々乱暴です。
なぜなら、どんな本でも「売っていなければ売れない」からです。

?????←

なんだ当たり前のこと…と思うかもしれませんが、
これは常に編集者、作り手側にはついてまわる問題で、
この意識がない編集者はいい編集者とはいえません。

②で触れた、社会的に関心の高いテーマを出版する何よりのメリットは、
「書店さんが店頭で展開したくなる」
という要素が大きいからです。

わかりやすい例で言えば、
サッカーワールドカップがあるときには、
必ず書店さんでは「W杯フェア」として、
サッカー関連の本や、サッカー選手の自己啓発本などが
書店の最もいいスペースに並びます。

(新刊台・フェア台と呼ばれます)

オリンピックのときにはもちろん、
オリンピック選手の本が並びますし、
今でいえば「テレワーク」の本などが、
よくフェアを組まれています。

先ほども触れましたが、
書店に並ばなければ本は絶対に売れません。
当たり前のことのようですが、
本は「出せば並ぶ」ものではまったくないからこそ、
「お店に並ぶ」ことがまず「ひと勝負」なのです。


書店さんには毎日新刊が200タイトルも届けられる、
などと言われます。
既刊本と呼ばれるベストセラー本も、
毎日のように送られてきますから、
それだけの本を並ぶスペースなど、
中小の書店さんになればなるほど、当然あるはずがない。

だからどんなに面白くていい本でも、
書店さんでうまく新刊として並ばなかった、
たったそれだけの理由で「売れない本」という烙印を押され、
1年後には絶版の憂き目にあったりするわけです。


せっかくのいい本が、
たったこれだけのことで日の目を見ずに失われていくのは、
本を愛する編集者として、
そして本を通して読者の人生を変えたいと願う編集者にとって、
身を切ると同等の痛みを感じます。

ということで、
「書店さんが置きたい」と思ってくれる本をリメイクして出版できる。
つまり、そもそもの前提条件として、
「書店」という最初の大きな闘いを勝ち抜ける算段が立つ、
という意味でとても重要です。


④再度流通に乗せられる


出版業界は取次と呼ばれる
流通業者(日販、トーハンなど)が書店さんに
本を届けることで書店さんに毎日本が並べられています。

たとえばAというサッカー選手の本が、
W杯の開催でサッカー熱が高まっているからといって、
じゃあ書店に置いてもらおうと1000部、2000部と
取次にお願いして書店に本を届けてくれるかというと、
それはできません。

なぜなら新刊本ではないからです。
実際に書店さんから1000部、2000部と注文が来るなら、
当然、流通業者が書店に届けるわけですが、
そもそも「その本」がメディアなどで紹介され、
注目されたわけでもなければ、
注文でそんな大量の冊数がくることはまずありません。

せっかく社会的な関心は高まっているのに、
本を流通させることはできない、
というもどかしい状況になるわけです。

これ、出版業界では本当によくある光景で、
編集者はその度に、

「書店さんから注文とってよ〜、広告うってよ〜」

などと心で叫んでいるものです。
しかし、この流通業者が数千部という単位で、
過去の既刊本でもちゃんと書店さんに届けてくれる方法が存在します。

それが「新刊として過去の本を出版する」

つまり今回のテーマである、
リメイクして新装版などとして出す、
ということになります。

結局、どれだけ社会的な関心が高まって、
書店さんも置いてくれるとしても、
その本の情報が届かなければ書店さんは存在すら知りませんので、
置いてはくれません。

またまたサッカーでの例えになりますが、
W杯でかつてないほど盛り上がり、
オランダが優勝してオランダのサッカー選手が
日本で大人気になったとしても、
エドガー・ダーヴィッツが本を出していることを
書店員さんが知らなければ、もちろん注文などするはずもありません。


しかし、過去の本を「新刊」として出せば、
自動的に書店さんに一度は届けられ、
その存在を目にすることになります。

そこで、

「あっ、この本は今の時代にあった本だな!」

と思ってもらい、いい場所で展開してもらえるようになるわけです。
言ってしまえば今回の『新装版 免疫力をあなどるな!』も
再度流通をしてもらう、
という目的のために出版したといっても過言ではありません。



まとめ:仕組みを知れば、スキルが生まれる


『新装版 免疫力をあなどるな!』は
過去作品の新装版という立ち位置で、
刊行された1冊です。

しかしそれはただ単に
「コロナだし、免疫力だし、出しちゃえ!」
という感じで出版されているわけではありません。


いや、正直にいうと、
それくらいのノリや考えで出ている本も、
世の中にはたくさんあります。

個人的にはそういった安易な状況が嘆かわしくはあるのですが、
ちゃんと書店さんという「現場」の感覚や、
出版のシステムまで含めて編集者が認識していれば、
それを踏まえて

「じゃあ、どうやって本を新たにしようか」

という話に行き着きます。
そこで初めて編集者のスキルが発揮される(試される)わけです。
たとえ過去の本のリバイバルでも、文庫版でも、
どんな形であれ「出版」であり「編集」が伴う以上は、
そこに編集スキルを盛り込むことは可能です。


そして面白いか面白くないかを分けるのは、
そういう部分の差だったりします。

そしてそういうスキルが盛り込まれた本が
面白くないわけがなく、
そんな本に出会う度に、
「値段以上の価値があるなぁ」と感じます。

この「スキル」の詳細についてはまた余裕があれば書くので、
変わらずブログをチェックしてくださいね!

リメイク版の本に出会ったときには、
はたまた文庫を読むときなど、
そういった視点もちょっと意識して眺めてみると、
また違った本の面白さがあるかもしれませんね。

免疫力をあなどるな!①